ヒジュラ暦は、イスラム教の宗教暦として、ムハンマドのメッカからメディナへの移住(ヒジュラ)を起点に制定されました。本記事では、ヒジュラ暦の概要、各月の詳細な特徴、そしてイスラム圏で用いられる曜日の名称について、歴史的背景とともに詳しく解説します。宗教行事や文化的伝統と密接に関連するヒジュラ暦の魅力を分かりやすく紹介します。
概要
- 定義: ヒジュラ暦は、イスラム教における宗教暦であり、預言者ムハンマドがメッカからメディナへ移住(ヒジュラ)した年を起点としています。
- 特徴:
- 太陰暦(月の満ち欠け)を基本とし、1年は約354日で構成されます。
- 太陽暦(グレゴリオ暦)と比較すると約11日短いため、年ごとに季節とのずれが生じます。
歴史
- 7世紀初頭に確立され、イスラム共同体内で宗教行事や歴史的出来事の記録・整理のために利用されてきました。
- ヒジュラ暦の基準年は、ムハンマドのヒジュラ(移住)を記念しており、イスラム文化や伝統の重要な要素となっています。
構成と特徴
- 月の観測: 各月は新月の観測に基づいて開始され、通常29日または30日で構成されます。
- 宗教行事との連動: ヒジュラ暦は、断食月であるラマダーン、断食明け祭(イード・アル=フィトル)、犠牲祭(イード・アル=アドハー)など、イスラム教の主要な宗教行事の日付決定に利用されます。
各月の詳細(順序に沿ったリスト)
第1月:ムハッラム (محرّم, Muḥarram)
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- 特徴:戦いを禁じられた月
- 祝祭・記念行事:10日に『アーシューラー(フサイン殉教祭)』が該当
第2月:サファル (صفر, Ṣafar)
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- 特徴:略奪のために家をあける月
- 祝祭・記念行事:特に記載なし
第3月:ラビーア・アル=アウワル (ربيع الأول, Rabīʿ al-Awwal)
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- 特徴:春の第1月
- 祝祭・記念行事:12日に『マウリド・アン=ナビー(ムハンマド生誕祭)』が行われる
第4月:ラビーア・アッ=サーニー または ラビーア・アル=アーヒル(表記例:ربيع الثاني [Rabīʿ aṯ-Ṯānī / Rabīʿ al-Thānī] または ربيع الآخر [Rabīʿ al-Āḫir / Rabīʿ al-Ākhir])
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- 特徴:春の第2月
- 祝祭・記念行事:特に記載なし
第5月:ジュマーダー・アル=ウーラー (جمادى الأولى, Ǧumādā l-Ūlā / Jumādā al-Ūlā)
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- 特徴:第1の大地がかたまる月
- 祝祭・記念行事:特に記載なし
第6月:ジュマーダー・アッ=サーニヤ または ジュマーダー・アル=アーヒラ
(表記例:جمادى الثانية [Ǧumādā ṯ-Ṯāniya / Jumādā al-Thāniyah] または جمادى الآخر [Ǧumādā l-Āḫira / Jumādā al-Ākhirah])
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- 特徴:第2の大地がかたまる月
- 祝祭・記念行事:特に記載なし
第7月:ラジャブ (رجب, Raǧab / Rajab)
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- 特徴:戦いを慎む月
- 祝祭・記念行事:27日から『イスラー・ワ・ミーラージュ(預言者の天国昇天)』が該当
第8月:シャアバーン (شعبان, Šaʿbān / Shaʿbān)
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- 特徴:戦いをやめる月
- 祝祭・記念行事:特に記載なし
第9月:ラマダーン (رمضان, Ramaḍān)
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- 特徴:暑さで大地がこげる月
- 祝祭・記念行事:『ラマダーン(断食月)』としてムスリムにとって非常に重要
第10月:シャウワール (شوّال, Šawwāl / Shawwāl)
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- 特徴:ラクダの世話をする月
- 祝祭・記念行事:1日から『イード・アル=フィトル』が行われる
第11月:ズー・アル=カアダ (ذو القعدة, Ḏū l-Qaʿda / Dhū al-Qaʿdah)
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- 特徴:戦いをやめ、家に留まる月
- 祝祭・記念行事:該当する行事あり
第12月:ズー・アル=ヒッジャ (ذو الحجّة, Ḏū l-Ḥiǧǧa / Dhū al-Ḥijjah)
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- 特徴:巡礼の月
- 祝祭・記念行事:
- 9日に『ウクーフ(巡礼の中心的行事)』が行われる
- 10日から『イード・アル=アドハー(犠牲祭)』が該当
ヒジュラ暦の曜日の名称
曜日の名称は、イスラム文化や宗教的背景に由来しています。以下のリストに日本語、原義、アラビア語、翻字(ラテン文字およびカタカナ表記)を示します。
土曜日
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- 原義: シャバト(注8参照)
- アラビア語: السبت
- 翻字: al-Sabt
- カタカナ表記: アッ=サブト
日曜日
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- 原義: 「1」
- アラビア語: الأحد
- 翻字: al-Ahad
- カタカナ表記: アル=アハド
月曜日
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- 原義: 「2」
- アラビア語: الاثنين
- 翻字: al-Ithnayn
- カタカナ表記: アル=イスナイン
火曜日
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- 原義: 「3」
- アラビア語: الثلاثاء
- 翻字: al-Thalatha’
- カタカナ表記: アッ=サラーサー
水曜日
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- 原義: 「4」
- アラビア語: الأربعاء
- 翻字: al-Arba’a’
- カタカナ表記: アル=アルバアー
木曜日
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- 原義: 「5」
- アラビア語: الخميس
- 翻字: al-Khamis
- カタカナ表記: アル=ハミース
金曜日
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- 原義: 「集まる」(注9参照)
- アラビア語: الجمعة
- 翻字: al-Jum’a
- カタカナ表記: アル=ジュムア
宗教的意義と利用
- ヒジュラ暦は、イスラム教の宗教行事の日付(ラマダーンの断食、イード・アル=フィトル、イード・アル=アドハーなど)の決定に不可欠な役割を果たしています。
- また、歴史的な出来事の記録や、イスラム文化の伝統行事の基盤としても重要です。
現代における使用
- 多くのイスラム教国では、公式な行政暦としてはグレゴリオ暦が採用されていますが、宗教行事や文化的記念日については依然としてヒジュラ暦が用いられています。
- イスラム圏外に住むムスリムコミュニティにおいても、宗教的伝統を維持するための暦として重宝されています。
ヒジュラ暦は、イスラム教の歴史と文化を理解する上で欠かせない要素です。ムハンマドのヒジュラに始まり、各月の特徴や宗教行事、曜日名称に至るまで、その豊かな伝統は今日でも重要な役割を果たしています。本記事が、ヒジュラ暦に関する知識を深める一助となれば幸いです。
Wikipedia : Islamic calendar
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